ディスプレイの配置で演出する「ポップアップスペース」について考察
コロナ禍が明け店頭へ人出が戻ってきた。店舗はもちろんのこと、イベントや観光地などでも同様だ。場合によっては、今まで以上に賑わっている場所もあるのではないだろうか。すっかりモニター画面越しのコミュニケーションに慣れてしまったが、やはり人と直接触れ合ったり、五感で体感したりすることで直観的に感じ取れることも多い。
店舗では最近、ポップアップスペースなどの一時的な催事スペースを見かける機会が増えたように思う。これはネット通販などでは体感できない、リアルな売場ならではのワクワクするような雰囲気が求められているからではないだろうか。店頭が改めてタッチポイントとして重要視されていると感じているので、今回はこうしたポップアップスペースを演出するコツについて触れてみようと思う。
基本レイアウトは「三角形」
商品ディスプレイのレイアウトのポイントは「三角形」を構成することだと言われている。「三角形」の構成は主張すべき商品を目立たせつつ、そして圧迫感のない売り場づくりを行える点がメリットである。闇雲に商品などを積み上げてしまうと見通しも悪くなり、売り場を見渡せないため商品も選びにくくなってしまう。「三角形」の構成はそうした展示を回避しつつ、見栄えの良い売り場づくりを行うコツの一つである
具体的には、一見ランダムに見える商品や装飾品を、高さや奥行を利用して「三角形」の「塊」とすることだ。このようにすることで、主役の商品はより目に入りやすくなり、また売り場の奥への視線を塞ぐことなく展示をすることが可能となる。
一つのスペースへ複数の目玉商品を展示する際も考え方は一緒だ。「三角形」の構成が連続するように陳列すると整理がしやすい。
「三角形」の「塊」が連続することで陳列にもリズム感が出て、見ている買い物客もテンポ良くスムーズに商品選びが出来るようになる。
ライザーを使ったレイアウト
「三角形」の構成を行う上で必要となるのが、ライザーと呼ばれる商品陳列用の小さな台だ。「三角形」を作るとき、頂点となる商品を高く展示する場合などに使用でき、また展示へ段差を設けてメリハリを付ける際にも活躍する、商品展示の必須アイテムだ。
ライザーを常備している売り場もあるが、一時的にポップアップスペースを作る際に手元にない場合も多い。そのような場合は、簡易的に使えるライザーを展示用キットとして提供すると展示が行いやすい。最近では、リボードを使ったものなどエコを意識した素材で作られている例も見かけるようになった。素材も展示のイメージ作りに貢献できるため、演出したいイメージに合わせたものを使用することでブランドの世界観づくりにも役立つだろう。
既存ツールで展示を容易に
レイアウトを一から作るとなると、「三角形」の構成の作り方や商品の置き方などを考えながら進める必要があるため、それなりに時間や手間がかかってしまう。そんな時は既存の什器を活用すると手間も減り、また多箇所展開でも同様の展示が行ないやすい。例えばカウンター什器が複数あるのであれば、それらを段差の違う場所へ置くことで、上下へ整然とした商品陳列が可能となる。ハンガー什器も自立させられれば展示に高さが出せ迫力のある陳列となるだろう。従来の什器を設計する際に、ポップアップスペースへの使用を考慮しておけばツールとしての活躍の幅も広がりそうだ。
演出する小物(プロップス)を使い世界観を表現
ポップアップスペースへ展示されるのは商品だけではない。商品の世界観や、季節感などを表現する演出物も重要な要素である。プロップスと呼ばれる装飾物は、そうした展示の演出を担う小道具である。商品のスペック訴求に直接関わらないかもしれないが、展示を魅力的に見せ、買い物客を惹きつけるための重要なツールだ。
例えば、これからクリスマスシーズンが始まるが、商品の展示にもクリスマスをテーマとした様々なプロップスが登場し、買い物意欲を高めるだろう。また年が明ければ正月飾りが多く登場するだろうし、春先になれば新生活を想像させる桜などのモチーフも登場する。限りある店頭スペースを有効に使うために、無駄なく商品を陳列するような効率的な展示も多く見かけるが、やはりそこには商品だけでなく買い物空間を楽しむための「余白」のような演出が欲しいものだ。最近では、アクリルスタンドを使ったキャラクターグッズが人気だが、そんな俊な造作物を取り入れても楽しい。こうした演出物は、ポップアップスペースに限らず、定番の店頭販促物にも積極的に取り入れられるべきものでないかと考えている。
遠方からも存在に気づかせるアテンション
最後に、こうしたポップアップスペースの存在を気づかせるために重要なのが、アテンションツールだ。ポップアップスペースは定番コーナーの商品とは異なり、買い物客の目の前に、突然と現れる売り場である。その為、まずは売り場の存在に気づいてもらわなければならない。その時に活躍するのが、存在をアピールする大型タペストリーや、等身大カットアウトだ。
天井からの大型タペストリーは、商品展示の「三角形」の頂点との位置が近づくため、遠目から目立ちつつ、売り場との一体感も醸成できる。天井へのアテンションツールの取り付けが難しい場所については、等身大カットアウトやのぼりなどの自立式のアテンションツールを使用し、大きなグラフィックで興味を惹く事が可能だ。もし定番のフロア什器があれば、それらも一緒に設置することでボリューム感のあるポップアップスペースを作ることができ、展示自体がアテンション機能を持つ。仮設の売り場のため、限られた期間の中でどれだけ印象に残すことができるかは、展示企画の中でも最も考えなくてはならない点であるだろう。
単体の販売什器でも制作のポイントは同じ
今回はポップアップスペースの展示について、そのコツとなる基本形を解説してみたが、これらの考え方は通常の売り場づくりにも生かせるものである。「三角形」の構成、プロップスの使い方、アテンションなどの要素を一つにまとめたものが、カウンター什器やフロア什器などの単体の販売什器であると言えるだろう。また、文中でも述べたように、普段より売り場で使用されているカウンター什器などを組み合わせることで、ポップアップスペース作りにも活用できる。
商品展示は、展示を魅力的に見せるための感性が必要であると思われることもあるが、基本的な展示のルールが分かっていれば、比較的容易に形にできる分野である。普段より興味をもって百貨店のショーウインドウや、様々なポップアップスペースを観察し、どのような工夫が行われているかを知ることで、売り場づくりに生かしてもらいたいと思う。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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