大きいは目立つ!ビッグダミーを活用する。
POP広告にとって、物理的な“大きさ”は、訴求力に繋がる。大きなPOP広告はそれだけ遠くからも目立ち、売り場での存在感も強くなるからだ。設置スペースを作るためには店舗との商談を上手にすすめるなど営業努力が必要だが、大きなPOP広告の設置が叶えば、その効果は大きいだろう。
以前より、POP広告の手法として“ビッグダミー”と呼ばれるものがある。商品そのものを大きく再現することで、インパクトをもって訴求する手法である。過去には、携帯電話や電気シェーバー、テレビのリモコンなどのビッグダミーが店頭を飾っており、アテンション効果抜群の演出をしていた。現在でも、電動歯ブラシや理美容家電のビッグダミーが売り場の存在をアピールしている。
左より、昔の携帯電話、電動歯ブラシ、理美容家電のビッグダミー。モニターや電飾が付いており、非常に目立つ。
比較的ビッグダミーをよく見かける売り場は、コンビニや食料品売り場だろうか。食品などのパッケージを大きくし、遠目からも良く目立つ展示をしている。もともと小さな商品である上に、多くの商品が陳列されている売り場である。商品の存在や場所を伝えるのにビッグダミーは最適である。ただし、直ぐに実施を決断できるものでもない。それは、それなりのコストがかかるからだ。
コンビニやスーパーなどのビッグダミー。遠目からも目立つ。ビニール製品が多い。
コンビニやスーパーなどで見られる食品や日用品のビッグダミーは、ビニール製品が多い。単価の安い製品群に使用するには少々高価なツールだ。家電製品のビッグダミーに至っては、スチロールや樹脂、鉄なども使用しており、一台数十万円することもある。設置の効果は分かっていても、なかなか実施に至らない場合が多いのが現実だ。しかし近年では、企画・設計の技術の向上、構造設計の工夫から、比較的安価にビッグダミーを企画することが可能となってきた。例えば、近年では催事の定番となっている恵方巻のビッグダミーだ。
恵方巻のビッグダミー。円柱形のシンプルな構造だが、シズル感のある恵方巻となっている。
構造としては、紙製のシンプルな円柱である。しかし、断面に具材の詰まったビジュアルを使用し、周りに海苔のテクスチャーを印刷することで、実に美味しそうな恵方巻になっている。他にも、シンプルな六角柱や、長方形の箱に商品のビジュアルを配置することで、リアルな鉛筆やゲームソフトのビッグダミーも作られている。素材に拘ったり、複雑な形状としなくても、商品の雰囲気を上手にくみ取り伝えられれば、ビッグダミーとして成り立つのだ。
六角柱が巨大鉛筆に、長方形の箱がリアルなゲームソフトパッケージになっている。
特に注目すべきは、複雑な形状の商品までも、紙の構造設計の工夫でリアルな商品に仕上げている事例である。シンプルな形状の紙製パーツを複数組み合わせることで、実際の商品に近しい形状を見事に再現している。デザインのポイントとなる箇所には拘り、そうではない箇所は簡略化することで、コストを押えつつも見事にビッグダミーとして成り立たせている。こうした設計の妙は、企画や構造設計の技術力向上の賜物ではないかと考えている。ステンレスボトルのビッグダミーなどは、隣の商品と比べても実に見事にデザインを再現していることが分かる。裏から見なくては紙製とは気づかない程だ。
構造設計の妙で、見事に商品形状が再現されているビッグダミーたち。
リアル店舗での買い物の楽しさの一つに「リテールテインメント」と呼ばれる『娯楽性』が挙げられる。ビッグダミーは、商品のアテンション効果を高めるだけでなく、買い物の楽しさも醸し出してくれる存在であると思う。比較的製造のハードルが下がった今、改めて買い物客をアッと言わせるビッグダミーを企画し、買い物客の足を店頭へ向けさせることを考えてみるのはいかがだろうか。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。