コンビニのレジ前タバコ什器は、紙製造形物のクリエイティブ見本市だ!
コンビニへ行くと、必ず目に付く店頭ツールがある。レジ前のタバコ什器だ。いつからか、定番什器のようにレジ前へ鎮座している。
このレジ前タバコ什器が登場した背景には、タバコの広告規制がある。タバコは広告規制の厳しい商材である。ひと昔前は、深夜のTVCMや街の看板などでタバコの広告を見かけた記憶をお持ちの方も多いと思う。しかし、今ではテレビ、ラジオ、屋外広告、公共交通機関などでの告知は自主規制している。また、つい最近まで目にしていたかと思うが、ライターなどのノベルティを付けて販売することも規制されている。そんな露出やプロモーションを規制されたタバコをアピールできる数少ない媒体が、コンビニのレジ前の什器なのである。
このタバコ什器は、約二週間に一度、全国の数多くのコンビニで一斉展開されるという施策である。販売什器としてはかなり多めの更新頻度と言える。そのため素材なども限られ、多くは企画のスケジュール面やコスト面から紙製をベースとしている。
様々な制約のある店頭ツールであるが、その分、クリエーティブアイデアで新しい商品訴求の方法や、什器の構造への挑戦が見て取れる。更新頻度が高くとも、毎回、目新しさを追求し、飽きのこない展開をしなくてはならないのだ。コンビニへ行くたびに目にする販売什器だが、紙製の立体造形物の見本市という目線でみると、新たな魅力を発見することができるだろう。今回はレジ前のタバコ什器を通して、改めて紙という素材のもつ表現力や店頭ツールとしての発想に注目してみたいと思う。
①様々な形状や陳列方法が模索されていた2010年~2014年頃
レジ前のタバコ什器が登場し始めたのは、今から10年以上前の2010年ごろからだろうか。当時は、まだタバコ什器としてのフォーマットも固まっておらず、その分、斬新なデザインや陳列方法のものが多かった。商品を普通に並べたもの、真上から商品を取り出せるようにしたもの、クローゼットのように正面へも陳列スペースを設けたもの、什器自体のデザインを大胆に星型にしたものなど、色々であった。世界観づくりもバラエティに富んでおり、試行錯誤したクリエ―ティブからは紙製什器の多くの可能性を感じさせてくれる。
②コンビニへ、実証・体験型施策である「香りのテスター」を初めて設置
コンビニは、主に目的買いにて活用されるチャネルである。店内にはPOSデータを基に、買い物客からのニーズのある商品のみが陳列され、店頭で改めて商品特性を訴求するというチャネルではなかった。そんなコンビニへ初めて香りのテスターを設置し、実証・体験型の商品訴求を行ったのがタバコであったかと思う。今ではフレグランス商品のテスターを見かけるようにはなったが、タバコ什器はコンビニ活用の可能性を常に模索している施策であると感じている。
③紙製の『商品ビッグダミー』が続々と登場
商品ビッグダミーは、店頭ツールの長い歴史の中でもインパクトの高い施策として様々なカテゴリーで実施されてきた手法である。それをコンビニのレジ前で、紙で実施している点がとても挑戦的な企画である。紙でもここまで商品を再現することができるのかと、改めて感心してしまう事例たちである。
④三次元曲線や複雑な構造を実現し、見ごたえのある形状を追求
紙製であるにもかかわらず、曲面を多用し、見ごたえのある什器のデザインに仕上げている。中には三次元曲線を使った、高度な構造計算をされた什器も見受けられる。ブロックを積み重ねたような複雑な構造なども見受けられ、この短い更新頻度の中で、多くの店頭でしっかりと形状を作り上げていることに驚く。タバコ什器で実現できている形状は、他の業態や商材の什器でもきっと可能であろう。そうした、数多くのチャレンジを見せてくれるのも、レジ前のタバコ什器の魅力である。
⑤新しい売り方提案
タバコ什器では、商品のダミーサンプルを置いて販売を行うことが定番となっているが、買い物客の手への取らせ方として、様々な試行錯誤も行われてきた。箱型のダミーサンプルではなくカードにしたり、少ないスペースの中で商品見本の展示スペースを設けたり、スプリングの力によって商品が下から押し出されてくるストッカー什器にするなどである。これらの工夫も、いつもとは違う商品の見せ方を試行錯誤して行われているものであり、企画者の様々な挑戦が見て取れる。
まだまだ他にも、ここでは語りきれないほどの素晴らしい事例が沢山ある。もう10年以上も、毎日欠かさずにコンビニのレジ前に鎮座している什器たちである。ぜひ、ご自身の目でも改めてタバコ什器の魅力を確認していただきたいと思う。また機会があれば、引き続きタバコ什器の魅力をお伝えしたい。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。