分かり易い売り場づくりに活躍できる「チャート」表現
2023年はコロナ禍が明け、街へ人流が戻ってきた年となった。内閣府が公開している「新型コロナウイルス感染症対策」特設サイト内の「東京都の主要地点・歓楽街の人出」を見ても、2019年度のピーク時の人流と比較しても8割ほどの人流が戻ってきているようだ(表①)。買い物においても、やはり実際にリアル店舗へ足を運び、商品を見て、触れて、確認をしながらの買い物は、パソコンやスマホの画面からでは伝わりにくい商品の魅力に気づくことも多いだろう。
商品に溢れた売り場は、それ自体が魅力的である(画像①、②)。一方で、リアル店舗の売り場づくりの課題として、多くの商品から買い物客が求めている商品を見つけてもらう「検索性」をどのように高めるかがある。今回は、そんなリアル店舗での商品の「検索性」を高める工夫を紹介する。
表①:内閣府,「新型コロナウイルス感染症対策」特設サイトより(2024-3-10,アクセス)
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画像①:圧巻のスケボー売り場。デザインバリエーションを見るだけで楽しい
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画像②:商品を一堂に会し、メーカー間の比較検討もできる売り場
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商品スペックを整理し、絞り込みが行なえる売り場
商品を選ぶ際に、大まかなスペックが選択基準となる場合、その違いをいかに分かり易く示せるかが、買い物のしやすさのポイントとなる。例えばニトリの「Nウォーム」は、冬季になるとテレビCMでも強くアピールしている吸湿発熱(体から発散される汗などの水分を熱に変換する)素材を使用した毛布などの寝具商品だが、発熱のレベルに応じて三段階の商品ラインナップが用意されている。この「Nウォーム」の売り場では、買い物客が商品選択に迷わないよう、非常に優れたチャート表による情報整理がされていた。
まず、三段階の商品があることを色分けして大きく表示し、自分に必要な「Nフォーム」を選べるようになっている。売り場には多くの商品があるが、それらがどのスペックに該当するかが分かる一覧表が作成され、各商品にも同様の情報が表示されている。買い物客は「Nウォームの理解」→「スペックの絞り込み」→「商品の絞り込み」と、スムーズな商品選びが可能だ。こうした、買い物のスタートをしっかりと定めた売り方は、初めて商品を購入する客にも安心して買い物を進めてもらえるだろう。
他にも、フロアマット売り場にてサイズ別に商品を区分していたり、フライパン売り場で「IH対応」「IH非対応」に分けていたりと、多くの商品が陳列される売り場であるほど、まずは商品スペックの大きな違いを示すことが商品選びには重要だ。こうした情報の整理は、間違いの無い買い物や、時間のかからない買い物など、買い物体験の向上に必須であろう。
画像③:ニトリのNウォームの比較検討売り場
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画像④:ホームセンターで、フロアマットの大きさ比較と、フライパンの種類を区別してくれている商品整理
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販売員の目線で、商品の特徴を整理
買い物をするために、ネット通販ではなくリアル店舗へ足を運ぶ理由の一つとして、販売員の接客が受けられる点がある。買い物客にとって販売員は身近な商品の専門家だ。また販売員も日々接客を行う中で、どのような買い物客にとって、どの商品を推奨することが良いのかを実感している。そんな販売員の声を元にした商品選びのチャート表作りは、買い物客にとって納得度の高い商品説明になるだろう。
例えば、近年人気の文房具売り場には、かなりの数のボールペンが展示されている。どの商品も魅力的な特徴を持っており、なかなか選ぶポイントが絞れない。試し書きも行えるが、やはりどれも書き心地がよいので、益々悩んでしまう。そんな時に、様々な商品の特徴を熟知している販売員の意見は大変貴重だ。多くの商品の中から、どのように自分に合った商品を選べば良いのか教えてくれるだろう。こうした販売員のアドバイスは店頭訴求でも強力なコンテンツになる。画像のように販売員のアドバイスをチャート表として整理すれば、商品を選びやすい売り場として、さらに買い物客からの信頼も得られるのではないだろうか。
画像⑤:多くの商品を、販売員の客観的な目線でチャート化した店頭訴求
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店頭のディスプレイをチャート表に
また、お店の推奨する商品をチャート化し、そのままディスプレイとしてしまう売り方もある。画像は酒屋の入り口壁面に作られたディスプレイだが、商品陳列をそのままチャート表にしており、それぞれの特徴を俯瞰して見られるようにしている。気になるテイストなどのタイプがあれば、陳列されている商品を購入すれば良く、どんな銘柄を選べば良いのか悩んでいる買い物客にも便利なチャート表になっているのだ。また入り口付近でのVP(ビジュアルプレゼンテーション)の役割も果たしており、お店の前の通行客の関心を引くことで、入店率増にも繋がりそうだ。
画像⑥:実際の日本酒を取り付けられたチャート表型のディスプレイデザイン
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多くの品種をチャート化し、知らなかった品種も知れる
チャート表にすることで、改めて商品バリエーションの豊富さに気付き、商品への興味が沸くこともある。例えば近年の青果売り場では、店舗によって拘りの青果を充実させていることが多い。例えば、バナナだけ多くの品種を取り揃え、滅多に見る事の出来ないような品種まで取り扱うことで売り場の個性を際立たせるようなやり方だ。最近では、サツマイモブームを背景に多くのサツマイモの品種を取り揃えていたり、リンゴや柑橘類を充実させている店舗もよく見かける。ただ、多くの品種を並べるだけでも迫力のある売り場にはなるものの、なぜそんなに多品種を扱う必要があるのかまでは伝わりにくい。そんな時に、味覚や、食べ応えの違いなどをチャート化することで、多くの品種を取り揃えている意味や、どれだけの種類の品種を扱っているかなどもひと目で分かりやすくなる。何よりも、買い物客が今まで知らなかった商品を知ることにもなり、商品を選ぶことが楽しい売り場になるのではないだろうか。
画像⑦:青果売り場にて、品種の特徴を分かり易くチャート化した告知
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メーカーの商品ラインナップも、チャート展示で分かりやすく
商品バリエーションについて、例えばテレビやデジカメなどの家電製品は、同一メーカーが幅広いラインナップを取り揃えている。こうした商品の機能訴求は、それぞれの商品の告知物のフォーマットを揃え、比較検討がしやすいように情報を整理するのが定石だ。ただし、もし一か所にまとめて展示ができるのであれば、そちらの方がより分かりやすくなるだろう。例えば、パナソニックのペットカメラやベビーモニターなどのホームネットワーク商品などは、初めて購入する買い物客が多いと思われるが、そんな買い物客にも分かりやすいよう全ての商品をまとめて展示した集合什器を制作し、色と図解で比較できるようにしている。買い物客にとっては、まずランナップの全容を把握した上で自分の必要としている商品を探すことができるため、商品を見逃すことも少なくなり、納得の行く商品選びができるのではないだろうか。
画像⑧:購買機会の少ない商品でも、分かりやすく比較検討できる
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ユーザーニーズごとにラインナップを充実させている商品などは、単品で陳列するだけでは商品の開発意図が伝わりにくく、せっかくの商品訴求のチャンスがもったいない。開発意図が伝わるように、やはりラインナップの全体像をしっかりと伝え、最適な商品を選んでもらえるよう誘導したい。ライオンのデンタルフロスは、初めて使用する人から、よく使用する人まで、様々なユーザーに向けてラインナップを展開している商品だ。日本でデンタルフロスを使用する人の割合は半分以下という。売り場では、初めて商品を購入する買い物客も多く、そんな方のために商品を「初心者向け商品」「具体的な悩みを解決する商品」を分け、チャート化し陳列している。色別に区分けされた各商品は、買い物客がスムーズに目的の商品を選べるよう、分かりやすく誘導してくれている。ラインナップをチャート化し一覧した表現は、一度売り場に来てもらえれば様々な商品があることも認知させられる。今後、デンタルフロスを購入する買い物客は、きっとこのラインナップ紹介を元に商品選びを続けるのではないだろうか。
画像⑨:ラインナップの選び方を分かり易く解説
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ブランドイメージ訴求も兼ね備えた、機能のチャート表化
最後に紹介するのは、チャート表が販売員の代わりに専門的な視点で商品を推奨してくれる好事例だ。リップスの機能性ワックスには「ツヤ感」と「セット力」の違いで9種類の商品があるという。この9種類の商品を分かりやすくチャート化することで、自分好みの商品を見つけられるという仕組みだ。商品ラインナップをチャート化する表現自体は、例えばWEBなど他の媒体でも説明することはできるだろう。しかし、買い物を行う場で、商品陳列自体がチャートに組み込まれていると、こんなにも選びやすいのかと改めて感じさせる。さらに、このリップスの什器は商品がセットされた姿も美しい。ブランドイメージの表現と買いやすさの二つを兼ね備えた秀逸な企画かと思う。
画像⑩:「ツヤ感」と「セット力」の二軸でチャート化し、分かりやすく図解
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多くの商品を検索できるネット通販と違い、リアル店舗では限られた商品しか扱えないが、それでも商品数は膨大である。それらの商品を、いかに見つけやすく、分かりやすく、選びやすくするかという「検索性」は、リアル店舗に求められる役割でもある。商品をただ美しく陳列するだけでなく、こうした情報整理の視点でも陳列が行なえると、店舗はより活用されやすくなるだろう。商品陳列については、売り場任せになることが多いかもしれないが、メーカーの販促什器でも実施可能なことは多い。ぜひ商品の陳列方法を考える際には、今回の事例のようなチャートを活用した表現も参考にしていただければと思う。
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文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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