売り場へ買い物客を惹きつけるディスプレイのポイントとは
売り場の作り方の理論として、VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)というものがある。商品のプレゼンテーションを、VP(ビジュアル・プレゼンテーション)、PP(ポイント・プレゼンテーション)、IP(アイテム・プレゼンテーション)と、大きく3つの役割に分け、店舗や売り場の入り口から商品選びまでの買い物導線に沿って、購買行動に合った商品紹介を行うというものである。主にアパレル業界やメガネ、時計などの専門店にて実施されている理論であるが、最近では量販店でもVMDを意識した売り場づくりを見かけることができる。
VMD理論の考え方
特に最近では、スーパーでのPPの活用が目立つ。特定のカテゴリー売り場の存在を遠くからでも視認できるよう、魅力的なディスプレイを企画している。商品のフェース数が売り上げに直結するスーパーにおいて、従来であれば多くの商品が陳列されるスペースを割いてまでディスプレイに使用するということはあまり見かけなかったのだが、これも商品と買い物客とのリアルな接点を重視するようになった店舗の変化の表れであろうか。どのような施策が行われているのか、見てみようと思う。
①アルコール飲料売り場での、懐かしの「居酒屋」シーンの想起
アルコール飲料売り場での、どこか懐かしさを感じる居酒屋シーンである。少し錆びた表現などをしている看板、アテンションとなっている提灯など、自宅で居酒屋気分が味わえそうなディスプレイである。特にコロナ禍では、飲食店でのアルコールの提供は自粛されていた。そのような気持ちも汲みながら、自宅呑み」を訴求し、思わず商品に手を伸ばしたくなるような演出である。
②缶詰売り場での、新たな生活提案をする「シーチキン食堂」
認知度の非常に高いシーチキンによる生活提案型ディスプレイである。缶詰商品が数多く並んでいる売り場の中で、改めてブランドと買い物客とのコミュニケーションを行うディスプレイとなっている。定番什器の中へひさしと暖簾を作り、奥にはウェルダー製の魚も展示されている。スーパーの缶詰売り場は、今や多種多様の商品が並ぶ激戦地だ。そんな売り場の中でシーチキンの存在感を示し、様々なメニュー提案を行っている。この「シーチキン食堂」のディスプレイは、商品の陳列数を減らした以上のアテンション効果があるに違いない。
③玩具売り場での、大迫力のキャラクターディスプレイ
売り場のエンドスペース(陳列棚の並ぶ列の端に、導線に面して置かれる棚位置)へ作られた、大迫力のロボットのディスプレイである。棚の奥から手前へ、遠近感を強調した造作物は見事である。大型のディスプレイと言えば映画館のスタンディを思い浮かべることが多いが、エンド棚を使用すれば、こんなにも大型の訴求ができるのかと、改めて気づかされた展開である。
④ペット用品売り場での、買い物客参加型「シマホ神社」
リアル店舗にて、買い物客とのコミュニケーションを目的としたディスプレイである。神社に見立てたペット用品売り場のエンドスペースにて、ペットに代わって飼い主が願掛けをするという企画となっている。なかなかペットに代わって祈願する場所や機会はないため、多くの買い物客が絵馬を書いていた。ペットを愛する気持ちを表現でき、飼い主にとっても嬉しい売り場になったのではないだろうか。
⑤日用品や家電を中心として販売していたメーカーの「お米売り場」づくり
数多くの日用品や家電を手掛けているアイリスオーヤマのお米売り場である。アイリスオーヤマがお米を販売しているイメージの認知醸成をエンドコーナー全体で実施している。定番の什器に紙製の屋根を乗せたシンプルな構造だが、店内にお米の倉を見事に表現しており、買い物客に注目させることに成功していた。お米売り場には意外と店頭ツールは少ない。そこへ日用品や家電の売り場づくりのノウハウにてコーナー作りを行っていたが、競合のディスプレイなどが少ないため、抜群の存在感を示していた。
こうした売り場が増えている理由としては、前述したように、各メーカーや小売業がリアル店舗の価値を改めて考え、買い物客に楽しい購買体験を提供しようとしているからであろう。注目すべきは、今まで各カテゴリーのエンドコーナーに集約されていた大がかりな演出が、今では定番コーナーでも実施されるようになった点である。様々な場所で印象的なギミックが用意され、魅力的な売り場づくりが行われている。
これらのディスプレイは、低価格帯の商品が多い売り場でも、紙などを活用することでコストを抑えて実現できている。今後、ますますリアル店舗での顧客体験が重要視されたとき、手間やコストも含め現実的かつ魅力的な企画を素早く立案できるかどうかが、リアル店舗活用のポイントにもなりそうだ。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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