店舗で、顧客の「いいね!」を聞くコミュニケーション
買い物をする際、その商品がどれだけ人気があるのか、果たして他の人は購入しているのか、周りの評価が気になることが多い。例えば「売り上げNO.1」「売れています」「店長おススメ」などのPOPが取り付けられていると、つい手に取ってしまうことがあるのではないだろうか。これは「買い物に失敗したくない」という気持ちが表れているためと言われている。
ネット通販では、買い物客の評価や、買い物客自身の購買履歴をデータとして蓄積し活用できるため、買い物時に「おすすめ商品」としてレコメンドをしたり、またSNSでの評価を確認しながら商品選びをすることができる。こうした買い物の方法は、ネット通販ならではのものというイメージもあるのだが、店頭でも買い物客の生の声を商品選びに生かそうとする企画は以前より行われている。リアル店舗版の「いいね!」機能とでも言えるだろうか。
今回は、そんな買い物客の声を上手に活用した事例を紹介したいと思う。
どちらを応援する?企業対企業のキャンペーンと連動した投票企画
「ヒーロー文庫(主婦の友インフォス)」と「モンスター文庫(双葉社)」という、出版社の異なる2つの文庫レーベルが、企業の垣根を越えて人気対決するというキャンペーンにて行われた店頭での投票用POPである。来店客は、自分の応援するレーベルのステッカーをPOPへ貼っていき、ステッカー数でどちらの支持者が多いのかを一目瞭然とする企画だ。
キャンペーンでは、負けたレーベルは、一定期間、WEBサイトなどを勝ったレーベルの基調色に変えなければならないというルールもあり、大変注目された対決であった。私が店頭で見た時の勝負は均衡しており、売り場を通るたびに気になってしまった。後日、結果をみると「ヒーロー文庫」が勝利したようだ。2つのレーベルが競うことで、改めて両レーベルへの注目度が高まり、それが認知拡大や興味促進につながった企画であった。
あたなはどっち派?問いかけることで新アイテムの認知向上
猫用のペットケアモニターという商品の店頭訴求で行われていた施策である。ペットケアモニターとは、猫の健康データをスマホへ自動的に記録し、お知らせしてくれるペット業界のDX商品である。愛猫家にとってペットの健康管理は気なるところ。この商品を普段使っているトイレと置き換えることで、体重やおしっこの様子、シートの交換時期などをモニターしてくれる。
新しい生活提案のアイテムのため、店頭では、まずは認知促進に力を入れていた。そこで企画されたのが、写真のアンケートである。今回のターゲットではない「犬」の飼い主も対象にいれ「人懐っこい犬派?」「ツンデレな猫派?」と問いかけている。貼られたシールを見ると、両者が均衡している。改めてどちらかと聞かれると、それぞれの愛ペット家は貼らずにはいられないような気がする。まずはペットを飼っているという幅広いターゲット層に注目されることに成功しているのではないだろうか。
ダイレクトに商品評価を聞く、正直マーケティング
食材売り場にて、商品の評価を直接聞いている企画である。食べてみて、美味しかったのかどうか、来店客に直接問いかける施策だ。掲出して時間が経っていないからか、あまりシールは貼られていないが、それでも「美味しい」に集中しており、「すごく美味しい」にも1つ貼られている。「あまり美味しくない」は0で、少なくとも買ってみて失敗したと思わなくても良さそうだ。
こうした、商品の評価を直接聞く場合、ネガティブな意見が多くなり商品が売れなくなってしまう可能性もあるが、あえて正直に問いかけることで、お店や陳列されている商品への信頼感は向上すると考える。前述したように、買い物客は「買い物を失敗したくない」のだ。失敗の少ない店や売り場は、買い物客も安心して来店することができるはずだ。
どのペンが好み?多くの人の意見を参考にする
近年は文房具ブームである。非常に多くの商品が並び、また新商品も続々と登場し、売り場も華やかだ。
そんな文房具売り場ではあるが、あまりに多くの商品が並んでいるために、選ぶのも大変ではないかと思う。この選ぶ大変さが、文具売り場の楽しさであるかもしれないが、周りの買い物客がどのような商品を選んでいるのかも気になるところである。
そこで、最近は、店頭にてシャープペンシルやボールペンの試し書きをしたあとで、人気アンケートを実施しているのを目にすることが増えた。投票結果を見る事で、どの文房具の人気があるのか、評判が良いのか、ファンが多いかなどを確認することができる。人気のある商品を選ぶことで安心することもできるし、自分の好きな商品の人気が少なくても、希少性を意識することも可能だ。
同じ売り場に足を運び、同じように商品を見た人の声である。WEBや雑誌でのアンケートとは異なり、非常に身近なデータとして参考にできると感じた施策であった。
近所の小学生に試食してもらいました!
とあるスーパーが、近所の小学校の生徒さんに商品を食べてもらい、その結果をそのまま掲示していた。二つの商品で大きく人気結果も異なっており、この意見を参考に入荷数なども考えたようだ。
試食をしたのが近所の小学生ということも安心感につながっている。見知らぬ誰かではなく、直ぐ近くに住んでいる、素直な子供たちが試食者なのだ。このスーパーは地元の人々に人気のあるお店なのだが、こうした地域に密着した様々な声を参考にマーケティングを行っているからこその人気なのだなと、改めて納得した施策であった。
今回は、店頭での買い物客の評判を「見える化」した店頭ツールを紹介した。この手法は、ネットの口コミ評価やSNSなどで気軽に「いいね!」をする行為と近しいのではないだろうか。買い物客やユーザーが商品に対して「いいね!」をし、それを見て他の買い物客が安心して商品を選ぶという買い物行動は、ネット通販やリアル店舗という買い物方法に関わらず、どちらにも共通する重要なものであると考えられる。
オンとオフ、デジタルとアナログの手法は、何かと切り分けて考えることが多いが、買い物客側としては、買い物をしやすい仕組みがあれば、どちらにも反映されていて欲しいはずだ。改めてリアル店舗での店頭施策を考える時、ネット通販の成功事例などが新しい提案の切り口になるのかもしれない。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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