『おいしい』の表現の進化
~リアル店舗で使用される食品サンプルの数々~
リアル店舗での買い物の醍醐味は、何といっても、直接商品を見て触れられることである。食品スーパーであれば、みずみずしい季節の食材などに触れられ、食欲を掻き立てられる。アパレルショップであれば、服のサイズだけでなく肌触りなど、触感を通して商品の魅力が伝えられる。リアル店舗では、パソコンやスマホの画面からでは得られない、五感を通した買い物ができることが、何よりも楽しいと思う。
最近、そんなリアル店舗での商品訴求について、特に店頭ツールの表現の幅が広がり、秀逸な施策が増えたと感じている売り場がある。調理家電売り場だ。
もともと日本では、飲食店のガラスケースに食品サンプルを陳列することが多かった。その本物そっくりの食品サンプルは世界でも類を見ないクオリティの高さであり、今では外国人観光客からも日本土産として大人気である。
(画像1)駅構内のお弁当売り場の駅弁サンプル
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(画像2)観光地でのお土産の食品サンプル
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現在の調理家電売り場では、こうした食品サンプルを随所に設置して、商品の機能性を説明するだけでなく、「美味しい」食生活が得られることを魅力的にアピールしているのだ。今回は、現在の調理家電売り場にて使用されている、食品サンプルの数々を紹介したい。
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①トースター売り場の、美味しそうな食パンたち
(画像3)トースター内に収められた食品サンプルたち
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まず紹介をするのは、トースター売り場の食パンのサンプルである。トースターの扉を開けると、食パンがどのように焼き上がるのか、また食パンが何枚焼けるかなどを、食品サンプルを使用して説明している。素材としては、発泡ウレタンを使用し立体的な食パンを作成しているものから、紙製の平面上のものまで様々である。どれも、非常に美味しそうに見えるのは言うまでも無く、こうした食品サンプルが商品内に収まっていることで、商品特徴が一目瞭然である。ふっくらと焼きあがる様子をサンプルで表現するのには、その形や色味など、大変な試行錯誤があったかと思うが、どれも見事な出来栄えである。
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(画像4)触感や、出来上がりイメージまでも再現したサンプル
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また見栄えだけではなく、パンの触感や、出来上がりの雰囲気までを忠実に再現をしている店頭ツールもあった。美味しそうな雰囲気だけでなく、機能訴求まで行っている秀逸な事例かと考える。
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②調理家電でここまでの料理ができる!幅広いメニューを表現
(画像5)幅広い調理メニューの雰囲気を忠実に再現
いまや調理家電は、多くの本格調理が可能となった。商品WEBサイトにて、調理できるレシピ例などを見ても、「旨辛手羽先」「豚バラブロックの岩塩焼き」「牛肩ロースステーキ和風ソース」「サラダ仕立てのタルトフランベ」「パプリカのカレー肉巻き」など、レストランのメニューのような料理名が並ぶ。どれも、プロが作ったかのような料理ばかりだ。この大きく進化した調理機能を、店頭にて一目瞭然に説明しているのが、やはり食品サンプルだ。肉や魚介などの様々な食材や料理の姿を、本物同様に再現し、シズル感をもって商品訴求を行っている。食品サンプルとは分かっていても、大盛のパエリアなどが電子レンジの庫内から出てくる様などは迫力満点であり、ネット通販では体感することが難しいリアル店舗ならではの商品訴求に成功していると感じている。
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③アタッチPOPへも、積極的に活用
(画像6)食品サンプルを利用した、小さなアタッチPOP
食品サンプルは、調理家電売り場でのアタッチPOPにも活用されている。アタッチPOPとは、小さなスペースへも設置ができる小型の店頭ツールのことであるが、このようなサイズのツールへも、小型の食品サンプルを作成して使用している。小さなツールではあるものの、食品サンプルを使用することで非常に存在感の強い訴求となっている。店頭ツールとして商品説明に活用するだけでなく、外国人観光客にとってはお土産としても欲しがりそうな、そんな魅力的なツールである。
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④バリエーション豊富な「たこ焼き」の表現
(画像7)たこ焼き器の食品サンプルのバリエーション
調理家電売り場を視察する際に、個人的に興味深く見ている商品がある。たこ焼き器だ。たこ焼き器の店頭ツールでは、メーカーによって実に様々なたこ焼きの食品サンプルを作成しているのが興味深い。紙を使用したもの、バキューム成型で表現したもの、本物そっくりのたこ焼きを制作しているもの、可愛らしいフェルト製のぬいぐるみのものなど様々だ。それぞれ、メーカーごとに店頭マーケティングの考え方が異なるための、表現手法の違いなのだろう。紙で作成すれば、多店舗でも展開がしやすい。逆にクオリティに拘っているものは、重点店舗へ制作コストを集中させているように思える。食品サンプルを使った企画の考え方からも、各メーカーの思惑が想像できそうだ。
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⑤その他、様々な食品サンプル
(画像8)お味噌汁やポップコーン、焼き鳥、綿菓子の食品サンプル
まだまだ、その他の調理家電でも食品サンプルは使用されている。中には店舗で食品サンプルの準備をしたり、販売員による手作りの食品サンプルも見かける。
これらの施策に共通することは、冒頭でも述べたように、リアル店舗ならではの訴求であるということだ。特に調理感電売り場では、料理のシズル感は強力な商品訴求のコンテンツとなる。今後も買い物は、より早く、効率的に、失敗のないよう進化を求められていくと思う。そうした時に、シズル感のある売り場づくりは、商品が分かりやすく、求める商品に巡り合いやすく、購入決定もしやすいという、買い物客の売り場への要望に合ったものかと思う。リアルな店舗ならではの商品訴求を考え続けることは、今後も変わらず、店頭ツール企画の重要なポイントとなるであろう。
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文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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