様々なギミックを実現! 『紙』という素材の可能性。
紙は店頭ツールの素材として最もポピュラーなものだ。改めて指摘するまでも無く、グラフィックの表現性が高く、加工も容易であり、生産コストも低い。近年のデジタル環境の発展とともに、CADを使用した複雑な構造設計や、大型プロッターを使用した短時間での試作も可能となった。今まで樹脂や金属で製造されていた強度が必要な什器なども、紙で製作し、構造を工夫することで代用することが可能となっている。企業のSDGsへの対応が求められる中、環境への配慮という点でも、今後も使用されるシーンは広がっていくだろう。
例えば、ひと昔前では難易度の高かった三次元曲線などの表現も、比較的容易にデザインへ活用できるようになり、造形力が高まったかと思う。「トイレ洗浄スプレー」の展示ディスプレイなどは、丸みを帯びた便座の特徴を紙で見事に再現している。 今回は「紙」を使用して、このようなものまで作ってしまうのかと感じた事例を紹介したい。
吊り下げ式の立体アテンションPOPも紙製で
「inゼリー」のアテンションPOPは、ブランドカラーで作られた輪の中に商品を模した紙製の立体物が吊るされ、フラフラと揺れるツールである。こうした空中に浮いているような立体物は、重量面や安全面からインフレータブル(ビニール風船)製であることが多いと感じていた。しかし、この「inゼリー」のアテンションPOPは、それが思い込みであることを気づかせてくれた。中身が空の紙製のため軽量であり、また角を丸く処理することで安全面でも問題なさそうだ。「inゼリー」の商品のデザインを再現するにあたって、この側面の凹みの処理などは見事である。紙を素材に選ぶという発想が、どんどん広がっているのだなと感じた事例であった。
回転ギミックを組み込んだ紙製什器
見るからに楽しそうな、「チョコボール」の絵柄合わせゲームが行える紙製什器である。絵柄部分が回転するようになっており、小さな子供がくるくる回して遊べる仕掛けだ。こうした買い物客が何度も触れられるようなギミックには、耐久性が求められるが、それを紙で実施していたことに驚かされた。当然、耐久性については何度も検証が行われたことだろう。実際に触れてみても、壊れるような不安はなかった。
同じ時期に他にも同様のギミックがあった。こちらは「メントス」「チュッパチャップス」の合同売り場である。
遊び方は絵柄合わせではなく、商品選びを助けてくれる占いのような仕掛けであるが、「チョコボール」の什器と同様に、何度も子供が回して遊ぶことが想定される。
これらのように買い物客が触れる什器については、まずは樹脂や金属などを使用した、堅牢な構造を企画することが多いかと思うが、どちらも菓子という低単価商品であることと、キャンペーン期間などの限定的な使用であることを考えると、コスト面から難しく、廃棄処理も大変だ。しかし紙製であれば、これらの事例のように実現可能である。こうした一つひとつ試みが、紙でできることの発想を広げてくれるのだなと感じた好事例であった。
紙製のガチャポンマシン
日清の「カップヌードル」が店頭にて総付け景品を配布するのに、オリジナルの紙製ガチャポンマシンを作成し実施していた。総付け景品の配布にガチャポンマシンを使用することだけでも秀逸なアイデアかと思われるが、そのために紙製のオリジナルマシンを作っていることが二重の驚きだ。商品を模したガチャポンマシンはアテンション効果も抜群である。私が景品をもらおうとレバーを回した時には、すでに配布数量を終えて空になってしまっていた。人気なのも納得だ。既製のガチャポンマシンを使ったのでは、それほど興味を持ってもらえなかっただろう。紙でガチャポンマシンを作るという発想や、それを形にしたデザイン、構造設計、生産管理など、様々な工程で高い専門性が発揮された好事例だと考える。
紙製の大輪の花
最後に、百貨店の入り口に飾られていた、大きな造花を紹介したい。初めに気付いた時は、まだ花はしぼんでいた。後日に前を通ると、大きく花開いていたのだ。一枚一枚の花びらが丁寧に広げられ、大輪の花を形作っていた素晴らしいペーパークラフトであった。花が開いた姿を見て、キャンペーンが始まったのだなと強く印象づけられた。もしかしたら、初めのしぼんだ姿は、たまたま組立前のものであったのかもしれない。しかし、紙であったからこそ、後で花びらを開き、丁寧に仕上げる事が出来たとも言えるのではないだろうか。現場で人の手によって完成した姿を左右させられるという不確定な要素も、見方を変えれば紙の魅力だ。
今回は、「ギミック」に着目して紙製什器を紹介してみた。前述したように、今後、SDGsに定められているような循環型社会への対応が、販促物を制作するメーカーや制作会社にも、より一層求められるであろう。その時、素材を紙製に変えていくというのは一つの選択肢である。そして、紙は想像以上に様々な用途に活用可能だ。今後さらに様々な施策が登場してくることに注目したい。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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