店舗の空きスペースを使い、売り場を拡張する「ハンガー什器」
ネット通販を利用した買い物は年々増加しており、それは日々の生活でも感じることができるかと思う。経済産業省の「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書(※)」によると、世界のEC化率は19.6%であり、前年度より1.8%増であった。この先もECの市場規模は増加傾向あり、2025年度には24.5%になると見られている。一方で、日本のEC化率も右肩上がりではあるものの、世界水準より低い8.78%となっている。日本の都市圏には多くのリアル店舗があり、その利便性も再認識されているため、買い物客は上手にネットとリアルの買い場を使い分けている様子だ。そんなリアル店舗を見ていると、一昔前よりメーカー間での場所取り競争が激化している気がしている。店舗内に余剰スペースがあると、直ぐに什器で埋まるのだ。今回は、そんなリアル店舗での売り場拡大に有効な、ハンガー什器についてレポートをしようと思う。
ハンガー什器とは、販売什器の側面やレジ前などにある隙間スペースへ商品陳列を行うことができる、主に吊り下げ式の陳列什器である。例えば新製品を発売しても定番棚の確保ができない場合、ハンガー什器によって臨時の陳列場所を作るなどする。売り上げが良ければ、今後の商談にも役立つだろう。ハンガー什器と言っても、様々な素材や構造、使われ方がある。それらの企画のポイントとなる視点を下記のようにまとめてみた。
① 様々な素材の使用
(左より、チュッパチャップス、カロリーメイト、ジレット、クロレッツの什器)
ハンガー什器に最も多い仕様は、厚紙で作られた本体に、吊り下げ用の紐の付いた構造だろう。あくまで仮設の売り場として使用されるため、使用した後は廃棄されることを考えたものだ。しかし、中にはそのまま新しい売り場として残るものもある。そのような場合は、継続して使用されることを見越し、樹脂や金属なども使われる。チュッパチャップスの什器は、オリジナルの樹脂成型で制作されており、もはや仮設の売り場というより専用什器のようだ。カロリーメイトの什器も金属で制作され、メーカーが自ら新しい売り場を創り出している。またジレットの什器は、側面に樹脂を使用し、紙製の物よりも豪華に見える。これも、直ぐに廃棄するのはもったいない仕様であり、継続した売り場確保ができそうだ。クロレッツの什器は、一般的なハンガー什器のようだが、マグネット板が取り付けられており、商品の金属缶が磁力でくっつくようになっている。ひと言でハンガー什器と言っても、その目的によって仕様も構造も様々であり、企画力を問われる部分でもある。
② クロスMD用什器としての使われ方
ハンガー什器は、売り場への商品追加を行いやすいため、クロスMD(異なるカテゴリー商品を陳列し、関連購買を促す施策)を行う場合に重宝される。例えば、アルコール飲料売り場では、ハンガー什器を使用して、おつまみや炭酸水、肝臓に良さそうなサプリメントが陳列されている。また、パン売り場ではチョコレートやビーナッツバター、コーヒー売り場ではコーヒーフィルターが陳列されている。ハンガー什器を企画する際は、什器のデザインの提案だけではなく、こうした売り方を起点とした提案なども有効であることが分かる事例である。
③ 豪華絢爛な「日本酒売り場」
ハンガー什器の一つ一つは、売り場の隙間スペースで展開されるため、コンパクトなものが多い。しかし、そうしたハンガー什器でも複数使用することで、遠方からの視認性の高い、専用売り場のようにする事も可能だ。大規模店舗で展開をする場合は、多数を使用したときの迫力を想定したデザイン提案も有効だろう。店舗の大きさや設置スペースの大小に合わせ、ハンガー什器の一個使いから、壁面をジャックする使い方までフレキシブルな展開が可能であり、ぜひ企画をする際には想定しておきたい使い方だ。
④ 小スペースでもブランディングを意識する
ハンガー什器は、少ないスペースの中でどのように商品を陳列するか、商品を取りやすくするかなど、構造面で考える要素が多い。一方で、什器としての構造にばかり目が行くと、什器自体のデザインが他の事例と似てしまうこともある。ハンガー什器を設置できるスペースは、狭くても独占できる貴重なスペースでもある。構造面の企画だけでなく、商品のブランドイメージを最大限に反映したデザインとすることで、商品の存在感や、競合商品との差別化を強くアピールすることが可能だ。シンプルな構造の多い施策だからこそ、しっかりと世界観を創り出すことが重要かと考える。
⑤ 店舗独自の生活提案をする
ハンガー什器がクロスMDにも活用されやすいことは前述した通りだが、新しい生活を提案する、店舗独自の切り口で売り場を作ることもやりやすい。例えば、日常の生活ではあまり購入されないであろう非常用の道具や食品などを、定番の保存食売り場に展開することも可能だ。また、洗濯洗剤の売り場にハンドクリームなどのスキンケア商品を置き、日常生活での肌の手入れへの気づきを与えたり、アルコール飲料とチョコレートの食べ合わせ提案を行っている事例もある。買い物客にとっては、今までの生活では気づかない提案をしてくれる店舗として、買い物が楽しい場所になるのではないだろうか。店舗にとっても、非計画購買が増えることでの客単価増が見込めそうだ。ハンガー什器の企画は、こうした売り方提案を通して実現していくものも多い。
⑥ 販売員の手間を軽減するフリーフォール機能や、商品のスタッキング機能
売り場の商品は、買い物客が手に取る度に補充したり、空いたスペースへ商品を並べなおす必要がある。販売員は、普段から定番売場の売り場づくりに忙しいのに、ハンガー什器のメンテナンスまではなかなか手が回らない。そんな時に嬉しい機能がフリーフォール機能とスタッキング機能だ。フリーフォール機能は、買い物客が商品を取り出すと上から商品が自動的に降りてきて、陳列が整理される。スタッキング機能は、商品のパッケージ形状に合わせたガイドが作られており、上から順番に商品を取り出せる仕組みだ。どちらも売り場の乱れが少なく、整然とした陳列を保つことができる。ハンガー什器は売り場を拡張させられると同時に、メンテナンスの手間も増えてしまう。こんな機能が考慮されていれば、売り場へのハンガー什器の設置率も上がるのではないだろうか。
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今回は、改めてハンガー什器の状況をレポートした。ハンガー什器自体は、日本のPOP広告市場の黎明期より使用されていた、昔ながらの施策である。しかし近年、改めてその必要性が再認識されているのではないかと感じている。ネット通販では、扱う商品数について物理的な制限が無いため、年間数個しか売れないようなニッチな商品を扱うことができるが、リアル店舗においても、少しでも多くの商品を扱うために売り場を効率的に使うことが意識されている気がしている。最近では、新しい壁面の使い方も見る事ができる。例えば、壁面での商品ディスプレイスペースの登場や、効率的に陳列を行うためのフックの開発などである。
最終的にネット通販で購入をする買い物客でも、店頭で商品を確認することが多い。そんなOMO(Online Merges with Offline)の買い物環境が整備されていく中で、買い物客とのリアルな接点を増やすハンガー什器は、これからますます進化する余地があると考えている。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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