「紙ワザ」は、これから店頭演出のポイントに
最近、「これ、紙なの?」と、ディスプレイの素材を見て驚くことが多々ある。一見すると、とても紙には見えず、近くでよく見て初めて「あ、紙だ」と気が付くのである。例えば、パナソニックのホームベーカリーのこのディスプレイだ。
どうだろうか?すぐに紙と気づけるだろうか?少し近寄るくらいでは紙とは気づきにくい。
パンの形をした立体造形へパンのマテリアル写真を貼り付けているだけの構造であるが形状と写真を組み合わせるだけで、これだけ本物そっくりの表現が行えるのである。
他にも、こんな事例もあった。ドラム式の洗濯機の予約POPである。発売前に、新商品の登場を予告しつつ、売場へ展示場所を確保するためのPOPであるが、従来は原寸大パネルの写真を置くのが一般的だ。しかし、この予約POPは、本物そっくりの原寸大のペーパークラフトを作り置いてあったのだ。
値札まで貼られており、実際の商品と見間違えるほどである。写真では本物にしか見えないのではないだろうか。
また、炊飯器の演出物である木製の窯の蓋、これも紙製である。
買い物をする立場からすると、商品を使用する実際のシーンや生活イメージを想像できるディスプレイや演出物は、商品選びの参考になるため、とても分かりやすいし、お店としても重宝されるものと思う。最近の売り場には、このようなPOPやディスプレイが本当に増えた。そして、このようなPOPが数多く登場している理由としては、次のような背景があると考えられる。
それはネット通販が一般化し、ネット通販と比較した時のリアル店舗ならではの買い物の利便性が再確認されたことだ。ネット通販が登場した時は、その利便性からリアル店舗は無くなるのではないかと言われていた。しかし現状は、買い物客がネット通販とリアル店舗を上手に使い分け、リアル店舗は直に商品を見て触れて買い物ができる場として利用されている。そんなリアル店舗で、実際の商品と一緒に利用シーンなどを表現するPOPやディスプレイが増えるのは必然であるといえる。ただ、そうしたPOPやディスプレイを制作するには様々なコストがかかる。そこで「紙」なのだ。
「紙」であれば、樹脂や鉄などと比較して安価であり、加工も容易だ。しかも「紙」は、改めて言うまでもなく環境保護の面でも優れた素材である。先に紹介したホームベーカリーのPOPのような食品サンプルは、従来であれば合成樹脂を使用する造形物であるが、紙で製作することで使用後の破棄も容易だ。企業のSDGsの活動にも合致した素材であり、これからは益々紙を用いたPOPなどの店頭施策が増えていくだろう。
では、「紙」によるPOP企画のポイントは何だろうか。それはズバリ、制作ノウハウである。「紙」へどのような印刷や加工を施せば意図した形が作り出せるか、またそれを大量生産できるかは、経験値が必要である。完成品を見られれば「ああ、こうなっているのか」と感想を持つことができるが、いざ、それをゼロから作ろうとすると、なかなか難題なのである。もう少し、よく「紙」で再現したなと感じた事例を紹介する。
あの国民的高校野球マンガの最後の一コマに登場する優勝杯である。よく紙で再現することを考え付いたものだと感心する。
シューズ乾燥機に取り付けられた、紙製のシューズ。使用方法が一目瞭然になっている。「紙」とは思えない、本物のシューズと見間違えるほどの完成度である。
定型のハンガー什器であるが、表面にカゴの網目を印刷するだけで雰囲気がでる。こうした単純な工夫に気が付けるかどうかも制作ノウハウ次第だ。
これからも紙を使用したPOPは増えるだろうし、増えるべきだと考えている。買い物客や販売員も驚かすような、紙製のPOPの登場を楽しみにしている。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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