店頭で「計測」するアイデア
店頭ツールのデジタル施策で、よく行われている企画の一つに「身体の計測」システムがある。デジタルの強みを生かし、様々な計測器を使用して即座に買い物客の身体を測定し、商品選択に生かしてもらうと同時に、買い物客の身体データを蓄積し、データ分析などを行う仕組みだ。店頭DXとは、まさにこのような仕組みを推し進めるためのキーワードの一つかと思う。
(写真 デジタルを活用した、売り場での様々な計測装置)
今までも商品に直接触れることのできる店頭では、しばしばアナログな手法で身体を計測する仕組みを作ってきた。やはりリアル店舗では、商品に触れながら買い物が行えることを強みと考え、その場で買い物客の身体に合った商品かどうかを確認できる様々な工夫が行われてきたのだ。大事なのは、商品選びをスムーズに行う事で買い物体験を向上させることであり、デジタルかアナログかは次に考えることである。どのような売り場で、どのような計測方法が必要だったのか。今回は、そんな身体の計測方法のアイデアを、あえてアナログで実施していた事例を紹介したいと思う。
①「手の大きさ」の計測
グローブがズラッとならんだ、ゴルフ用品売り場にて展開されていた、手のサイズの計測ツールである。手のイラストへ自分の手を当て、ツールについているベルトを手の甲に巻くと、そのベルトの色を目印にして、すぐに自分の手のサイズに合ったグローブが見つけ出せるというギミックだ。
ゴルフのグローブ売り場には、非常に多くの商品が並んでおり、またメーカーも様々なため、自分に合った商品を見つけ出すのも一苦労である。各メーカーは、少しでも買い物客に合った商品が見つけ出せるように、サイズや品種ごとに試着用のサンプルを用意しているが、この試着サンプルだけでも種類が多く、試着するだけでも大変だ。そこで、買い物客は、計測ツールを使用することで自分の手のサイズを確認できると同時に、そのサイズがどこにあるのか、計測ツールと連動した色で区分された売り場から商品が選べるのだ。
計測と商品探しが迅速に行える売り場は、まるでネット通販で簡単に商品を検索しているようである。買い物客の購買行動に沿った、秀逸な事例であると言える。
②「首筋から背筋」の計測
オーダーメイドの枕専門店で使用されていた計測ツールである。頭部から首筋、肩、背筋の形状を計測することでタイプ分けをし、最適な枕の形状や素材の提案を行っている。前後へ可動する細長いワイヤーが並んでおり、片方を身体へ押し当てて凸凹を作ることで、身体の特徴を分かりやすく表現してくれる。デジタル機器と接続できるようになれば、細かなサイズの数値まで確認、収集できそうだ。現状では、主に販売員による商品説明にて使われている。
顧客の身体を計測した数値は、商品開発やサービス拡充にも役立つ貴重な情報である。いずれは、このツールはデジタル化されるのだろう。
③「パーソナルカラー」の確認
近年、化粧品選びやアパレル製品のコーディネートなどでも着目されている肌のパーソナルカラーと、商品との相性を気軽にチェックできる店頭ツールである。どちらも、ツールへ手を差し出せば、直ぐに自分の肌色とファンデーションとの相性を確認できる、非常に便利なツールだ。コロナ禍での施策ということもあり、ツールへ直接触れなくとも視認できるところがポイントである。パーソナルカラーの診断も、メイベリンなどはスマホのカメラを使ったデジタル診断を実施しているが、こちらの店頭ツールの方がより簡易に確認をできる。今後、様々な店頭訴求でデジタル施策が増えていくと考えるが、この事例のようにアナログツールと比較したときの利便性が向上しているかどうかが、企画の成功の一つの試金石となるだろう。
④幼児の「足の大きさ」の測定
最後に、幼児の足のサイズを計測する事例を紹介する。上の画像は、幼児向けの試着用のサンプルである。つま先部分が透明になっており、試着をした時につま先の詰まり具合が視認できるようになっている。下の画像は、靴のサイズ別のシルエットへ幼児の足を合わせることで靴のサイズが分かるようになっている。どちらも幼児向けの施策だが、幼児は自分では自分に合っている商品かどうかを表現することができない。どうしても保護者の確認が必要だ。そこで幼児向けの靴売り場には、保護者が自分の目で幼児の足のサイズを確認できるアイデアが度々見られる。この売り場では、こうしたツールが無くては買い物も難しいであろう。
以上のように、店頭にて身体を「計測」する施策をいくつか紹介させていただいた。他にも、身体を「計測」するツールを様々な売り場で見る事ができる。そして、これらの「計測」は、買い物客が商品を選ぶ際に重要な情報なのだ。逆の見方をすると、買い物にて「計測」が必要な場所では、知恵を絞って計測方法を考え出されてきたと言える。
計測方法のアイデアについては秀逸な事例が多い。よくぞ、このような方法を考えたものだと感心してしまう。枕専門店での計測ツールのように、これらの施策にはデジタル化された方が利便性の良いものも多くありそうだ。今後の店頭のDX化のヒントとして、こうした売り場からデジタル化を実現していくことも一つの手段かと思われる。
これからも、リアル店舗での「計測」という手法は進化していきそうだ。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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