リアル店舗ならではの「触感」店頭販促ツール
「店頭DX」というキーワードと共に、店頭での様々な施策のデジタル化が試みられるようになった。先日、開催された展示会「リテールテックJAPAN」などは、あらゆるブースで「店頭DX」の提案を行っていた。今後も、店頭施策のデジタル化は急速に進んでいくのだろう。
一方で、店頭ツールに関していえば、デジタル化が進んだかと言えば、そうではないと感じている。リアルな買い物の場である店頭では、デジタルでは置き換えられない買い物プロセスが多く存在しているため、何でもデジタル化すれば良いというものではない。人間の五感を使いながら商品選びを行える場所として、リアル店舗は重宝されていくはずだ。今回は、そんなリアル店舗ならではの、「触感」をアピールする店頭ツールをレポートしたいと思う。
商品の「機能性」を触って伝える
まず紹介するのは、ホームベーカリー売り場とシェーバー売り場の店頭ツールだ。ホームベーカリー売り場には、製品で作ったパンの柔らかさを、シェーバー売り場には、製品使用後の肌触りを、それぞれサンプルを用意し、触感で伝えられるようにしている。パンを模した店頭ツールは、ふんわりとして美味しそうだ。シェーバーを使用した後の肌も、新商品の方がしっかりと剃れていることが分かる。また、こうした触感ツールはアイキャッチとしても強い。売り場の中へ、本物そっくりなパンや、人の肌が現れるのだ。その異質感は、意図せずとも目に入ってくる。触感ツールは、売り場への買い物客の立ち寄り率や、滞在率も高めそうだ。
思わず手を入れたくなる「仕掛け」
商品に触れてさえもらえれば商品特徴が分かるといっても、今度はどうしたら触れてもらえるかを考えなくてはならない。多くの商品が、リアル店舗で触れられることを期待している。そのような中で、思わず手を伸ばし触れたくなる施策をいくつか見かけた。それは、わざわざ商品に触れられる穴を用意したものだ。あえてツールへ「穴」を作ることで、触って実感して欲しい場所へと手を誘導する仕掛けだ。確かに、ただ商品が置かれていても、どこを触れれば良いのか分からない。この穴の開いたツールへは、売り場へ立ち寄る多くの買い物客が手を入れて商品特徴を確認していた。「触感」ツールは、確かに商品の特徴を実感できる手法であるが、「何に」触れれば良いのか、このような誘導方法もあるのだなと感心した手法であった。
素材に触れさせる「行動設計」
最近は素材を訴求する商品も多い。前述した涼感素材などもそうだ。特に、身に付ける商品の場合、いかに素材の使い心地を伝えるかは、店頭訴求において重要である。この場合、素材サンプルを店頭に設置するだけでは、買い物客に興味を持ってもらうのは難しいだろう。思わず素材に触れたくなる仕掛けが必要だ。例えば、素材と合わせた構造が特徴の場合、その構造を前面に押し出した展示を行うと、興味を持ってもらいやすい。また、どのように触れてもらうのか、触れ方の設計も重要である。商品が靴などの場合、足で直接、素材に触れられるようツールを床に置いたり、気軽に指で押して触感を確かめられるようにするなどである。素材の置き場所、置き方なども「触感」ツールを企画する際に重要となるポイントだ。
こだわりの「質感」に触れる
最後に、「触感」ツールでしか伝えられないであろう事例を紹介する。最近は、文具ブームということもあり、文具売り場の店頭ツールが華やかである。その中で、紙質に拘ったノートがあった。ペンなどでの書き心地を、ザラザラ、さらさら、ツルツルの、三種類の紙質から選べる商品だ。この紙質は、見た目ではほとんど違いが分からない。指先で触ってみて、初めてどのような紙質なのかを理解できる。この商品は、紙質をじっくりと吟味できるよう、大きなロール紙を用意して買い物客へ触れさせていた。紙の違いをとことん確認できるような展示だ。紙の質感を、印刷物やWEBで伝えるのは困難だ。リアル店舗だからこそ、商品の魅力が伝わるのだ。この事例からも、リアル店舗での「触感」ツールの重要さを再認識できる。
ネット通販とリアル店舗の使い分けも進み、買い物環境は益々進化している。最近では、「店頭DX」のキーワードの元で何でもデジタル化するような動きも落ち着き、リアル店舗のメリットを見直す試みも増えた。「触覚」を訴求するツールは、今後もリアル店舗ならではの施策として増えていくと考える。その時、ただ「触覚」などの五感を使用するだけではなく、それらを効果的に活用することが企画のポイントとなるはずだ。デジタルとアナログが効果的に連携したとき、また一歩、買い物が未来に進むのだろう。
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
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