リアルな場で、商品の「使用感」を伝える工夫
買い物方法が多様化する中で、リアル店舗では、実際に商品に触れながら買い物ができることが重要視されている。「リアル店舗とオンラインショップ」をテーマとした調査※1でも、リアル店舗を利用する理由として、調査対象となった「衣服・ファッション小物」「食品・飲料・酒類」「家電・TV・カメラ」「美容・化粧品」の全カテゴリーにおいて「その商品を生で見て決めたいから」が理由のトップに上がっている。買い物をする商品には、WEBやSNSなどでは確認できない品質や使い心地、触れて初めて分かる情報が多々あるのだ。
店頭での重要なプロモーションツールであるPOP広告も、ただ商品特徴を記載するだけでは、せっかくのリアルな接点での展開がもったいない。実物の商品を見ながら、より商品理解を行えることが、POP広告の強みを生かす手法の一つかと考える。
今回は、そんな売り場の商品と絡みながら、非常に分かりやすく直感的に商品の「使用感」について訴求を行っている事例を紹介する。
.
① 紙製マネキン人形と、商品を使った特徴訴求
リュック型のビジネスバッグの展示だが、オリジナルの紙製マネキン人形に商品を背負わせている。既成のマネキン人形を使用せず、紙製のマネキン人形を作成することで、背負っている際の注目ポイントを印刷にて訴求ができている。ショルダーベルトの存在や、背面のメッシュ生地などがどのように役立つのかが一目瞭然であり、使用時の直感的な商品訴求が可能となっている。
また、陳列されているバッグには、ポケットなどへ訴求カードが差し込まれており、その用途などが記載されている。ポケットの場所や使用方法が、写真つきの訴求で分かりやすく説明されているため、購入したあとの用途をリアルにシミュレーションしながら商品選びが行なえる。
② シュレッダーの切りくずの形状を見せる
この事例は、非常に秀逸なアイデアで、店頭ディスプレイに関わる方々にも注目を浴びた施策である。商品のシュレッダー上へ、使用した際に粉砕される切りくずのサンプルを吊り下げている。切りくずの大きさの比較や、情報セキュリティレベルが記載されており、どのシュレッダーを購入すれば良いのか比較検討がしやすい。シュレッダーの購入は、実は商品ではなく、粉砕される切りくずの姿を求めているのだと、改めて気付かされた施策であった(マーケティングを説明する有名な言葉である「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」という格言に似ているな、と感じている)。
.
③ 筆ペンんの、ハガキへの書き味を体感する
筆ペンの二大メーカーである「ぺんてる」と「呉竹」が同時に展開していた施策。試し書きコーナーへ、ただの白紙ではなく、筆ペンを使用する「年賀状」を模した用紙を用意し、実際の使用シーンをイメージできるようにしている。宛名の書き心地や、差出人の小さな文字などがどのように書けるのかを実際に試せられる。「呉竹」の試し書き用紙には、年賀状の宛名を美しく見せるレイアウト例まで記載されており、試し書きをした買い物客が気に入れば、きっとそのまま購入していくのだろう。
.
④ 何をデジタル化するか直感的に理解する
(画像6)食品サンプルを利用した、小さなアタッチPOP
古い写真やビデオテープ、ネガフィルムをデジタル化してくれるサービスの告知POP。デジタル化をする元となるVHSテープやアルバム、ネガフィルムなどを貼り付けることで、「何が」デジタル化されるのかを直感的に伝えられている。今まで置き場所を取っていたアナログ媒体がDVD一枚に収まってしまう事が分かりやすい。買い物客には高齢者も多そうだが、これであれば、このデジタル化というサービスがどのようなものであるのか、すぐに理解できそうだ。。
.
⑤ ノンアルコール飲料の消費者インサイトをアピール
最後に、簡単なキャッチコピーとイラストを商品に添えることで消費者インサイトへ訴えた例である。飲料のPOP広告には味や飲みごたえを訴求するものが多くあるが、この事例は、ノンアルコールワインのボトルネックPOPへ「のんでます」という一言と、妊婦とドライバーのイラストを添えて、改めて「私が飲んでも良いのだ」ということを気づかせることに成功している。ワイン売り場の定番POPであるボトルネックPOPにてノンアルコールの強みを訴求するというアイデアも秀逸だ。お酒の雰囲気はそのままに、妊婦やドライバーへ強く「飲んでも良いワイン」であることアをピールできている。
.
店頭にあるPOP広告の独自性は、WEBや動画はもちろん、カタログやパンフレット、ポスターとも異なり、実際の商品の近くで商品訴求を行える点である。ただスペックを伝えるだけであれば、他の手法でも実施は可能であり、POP広告である必要はない。当たり前のことではあるが、今、改めて再認識されることが多いのではないだろうか。今後、ますますデジタルを活用したプロモーションが増えていくだろう。そうした中でPOP広告をより積極的に活用するために、今一度「使用感を伝える」ことを切り口の一つとして考えることで、プロモーション企画のアイデアが広がっていくのではないかと思っている。
※1. ネオリサーチ社,「全国の20歳~79歳の男女1000人に聞いた「リアル店舗とオンラインショップ、どう選ぶ?」」,ネオリサーチ社市場調査レポート, https://neo-m.jp/investigation/3227/ ,(参照2022-8-11)
.
文・写真:向坂 文宏 氏
大手印刷会社、 広告代理店にて20年間、 家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品などメーカーを主なクライアントとして、多業種の店頭コミュニケーション施策を企画・実施。 現在は大学で教鞭を取りがら、POP研究家として店頭販促ツールの事例研究や、講演活動、コンサルティングを行っている。月刊販促会議(宣伝会議)にて最新店頭販促ツールのレポートを連載中。日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。桜美林大学准教授。 相模女子大学非常勤講師。
【関連記事】
▶リアルリアル店舗ならではの「触感」店頭販促ツール
https://www.links-net.co.jp/column/tactile